対称座標法の変換公式と複素数ベクトル演算の理解について

みなさん、こんにちは!

ブリュの公式ブログ.org(for Academic Style)にお越しいただきまして、ありがとうございます!

今回は、対称座標法で登場する変換公式について解説します。

対称座標法の問題を解く場合、結局は公式を覚えて、問題に沿って適用していけば解くことはできます。

しかし、ベクトルを扱う関係上、きっちりとイメージを持っておくことは推奨されます。

この記事では対称座標法の変換公式がどのように複素数ベクトルの計算をしているのかといった図的なイメージの部分も解説します。

できるだけ丁寧に解説したので、順に読み進めてもらえたらあと思います。

※この記事では、電流について書いていますが、電圧でも同じです。適宜読み替えてください。

この記事の前提となる、対称座標法がなぜ必要であるかのイメージについては、以前の記事で分かりやすく説明しました。

対称座標法がなぜ必要なのかイメージをわかりやすく解説!

また、対称座標法について順序立てて学びたい方は、

対称座標法の解説記事一覧と電験の出題例

をご覧ください。

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対称座標法の変換公式

まずは対称座標法の変換公式を紹介します。

ひとまず、問題が解ければそれでいいという場合には、以下の式(1)と式(2)だけ確実に暗記してください。

■a, b, c相→零相, 正相, 逆相

$$\left(\begin{matrix}\dot{I_0} \\ \dot{I_1} \\ \dot{I_2}\end{matrix}\right)
=\frac{1}{3}\left(
\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a} \\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)\tag{1}$$

■零相, 正相, 逆相→a, b, c相

$$\left(\begin{matrix}
\dot{I_a} \\ \dot{I_b} \\ \dot{I_c}\end{matrix}\right)
=\left(\begin{matrix}
1 & 1 & 1 \\
1 & a^2 & a \\
1 & a & a^2
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_0} \\ \dot{I_1} \\ \dot{I_2}
\end{matrix}\right)\tag{2}$$

ここで、$a$はベクトルオペレーターと呼び、複素平面上において反時計回りに120°回転させる演算子です。

図1 ベクトルオペレーター

念のため、式(2)より、

$$\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
=\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a^2&a\\
1&a&a^2
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_0}\\ \dot{I_1}\\ \dot{I_2}
\end{matrix}\right)$$

とできて、さらに式(1)から、

$$\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
=\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a^2&a\\
1&a&a^2
\end{matrix}\right)
・\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a} \\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)$$

となります。これは、a, b, c相をいったん零相, 正相, 逆相に変換した後、再びa, b, c相に戻しています。よって、右辺と左辺は等しいはずです。

確認してみましょう。

$$\begin{align}
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a^2&a\\
1&a&a^2
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\
\dot{I_b}\\
\dot{I_c}
\end{matrix}\right)\\
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1+1+1&1+a+a^2&1+a^2+a\\
1+a^2+a&1+a^3+a^3&1+a^4+a^2\\
1+a+a^2&1+a^2+a^4&1+a^3+a^3
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
\end{align}$$

ここで、$a^3=1$で整理すると、

$$\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1+1+1&1+a+a^2&1+a^2+a\\
1+a^2+a&1+1+1&1+a+a^2\\
1+a+a^2&1+a^2+a&1+1+1
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)$$

さらに、$1+a+a^2=0$であるから、

$$\begin{align}
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
3&0&0\\
0&3&0\\
0&0&3
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)\\
&=\left(\begin{matrix}
1&0&0\\
0&1&0\\
0&0&1
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)\\
&=\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)
\end{align}$$

となり、左辺と右辺が等しいことがわかりました。

対称座標法の変換公式における複素数演算の可視化

基本的には式(1)と式(2)を知っていれば、対称座標法の計算問題は解けます。

しかし、覚えるだけの暗記だけではスッキリしない方向けに、実際に複素数ベクトルがどのように演算されているかを可視化しました。

興味のある方は読み進めてください。

対称分の合成式の複素ベクトル演算

零相・正相・逆相の対称分をもとのa相、b相、c相に戻すのは、対称座標法のイメージが理解できていれば自然に分かるかと思います。

下のベクトル図を見て理解できればOKです。

すなわち、

  • a相:零相+正相+逆相
  • b相:零相+正相(240°進相)+逆相(120°進相)
  • c相:零相+正相(120°進相)+逆相(240°進相)

で計算できるものです。

図2 対称分の合成

これは対称座標法が、不平衡な三相交流電流を

  • 同相分の零相
  • 相順が正回転の正相
  • 相順が逆回転の逆相

に分解して解くこと、そのものを示しています。

もしこの辺りで躓いた方は、そもそも「一体、対称座標法で何がしたいのか?」というイメージが十分につかめていないと思いますので、まずは対称座標法のイメージを掴むところを考えればいいでしょう。

以下の記事で解説しています。

対称座標法がなぜ必要なのかイメージを説明します!

対称分への分解の複素ベクトル演算

零相電流

零相電流については、

$$\dot{I_0}=\frac{1}{3}\left(\dot{I_a}+\dot{I_b}+\dot{I_c}\right)$$

で計算できます。

ここで、対称座標法のイメージで考えれば、図に示す通り正相・逆相成分はそれぞれ相順が逆になっている平衡な三相電流となっています。

よって、単純に足し合わせれば、並行している三相交流電流は打ち消しあって0になるので、直感的イメージで零相電流のみが残ることがわかります。


(a)正相電流

(b)逆相電流

図3 正相と逆相は120°ずつ位相がズレ大きさの等しいベクトル

この「総和を計算すれば零相電流が残る」という直感的イメージで理解できれば、ベクトル図のことを深く理解できていると思っていいと思います。

試しに不平衡電流で計算してみましょう。

図4 検討する不平衡電流

図5において、正相電流のベクトル和、逆相電流のベクトル和をそれぞれ計算すれば、図5のようになります。

よって、正相電流、逆相電流は始点と終点が同じになるため、ベクトル和は0になることがわかります。

 ベクトルは大きさと向きを変えなければ、場所を自由に移動できます。

もしベクトルの取り扱いについて詳しく知りたい場合には、ベクトルに関する解説記事をご覧ください。

ベクトルの合成とは

図5 ベクトルの平行移動で正相と逆相を打ち消す

その結果、3相分の零相電流のみが残ります。

よって総和を$\frac{1}{3}$倍すれば零相電流が計算できます。

図6 零相電流のみが残る

このように、大きさの同じ3つのベクトルであれば、始点を一致させ終点を結んで正三角形が描かれれば、総和は0になって打ち消しあいます。

この先の正相電流や逆相電流の計算でも、この前提に従い説明していきます。

正相電流

正相電流については、

  • a相電流そのまま
  • b相電流の120°回転
  • c相電流の240°回転

の和になります。

図4の不平衡電流を、上記の条件で回転させれば、図7になります。

図7 式(1)に従ってb相とc相を回転させたベクトル図

図7において、零相電流のベクトル和、逆相電流のベクトル和をそれぞれ計算すれば、図8のようになります。

よって、零相電流、逆相電流は始点と終点が同じになるため、ベクトル和は0になることがわかります。

図8 正相電流のみが残る(ベクトルの平行移動で零相電流と逆相電流を打ち消す)

逆相電流

逆相電流については、

  • a相電流そのまま
  • b相電流の240°回転
  • c相電流の120°回転

の和になります。

図4の不平衡電流を、上記の条件で回転させれば、図9になります。

図9 式(1)に従ってb相電流とc相電流を回転させたベクトル図

図9において、零相電流のベクトル和、正相電流のベクトル和をそれぞれ計算すれば、図10のようになります。

よって、零相電流、正相電流は始点と終点が同じになるため、ベクトル和は0になることがわかります。

図10 逆相電流のみが残る(ベクトルの平行移動で零相電流と正相電流を打ち消す)

以上より、冒頭で紹介した対称座標法の変換公式である式(1)で、不平衡電流から対称分を取り出すことができるとわかりました。

$$\left(\begin{matrix}\dot{I_0} \\ \dot{I_1} \\ \dot{I_2}\end{matrix}\right)
=\frac{1}{3}\left(
\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a} \\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)\tag{再掲1}$$

まとめ

ここまで、対称座標法の変換公式について説明してきました。

公式自体は暗記すれば済むものではありますが、複素数ベクトルの演算についても理解しておくと、電気回路全般に知識が深まると思います。

以上、対称座標法の変換公式について、参考になれば幸いです。

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