対称座標法による1線地絡時の故障電流の計算方法

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今回は、対称座標法で1線地絡故障時の地絡電流を計算する方法について説明します。

対称座標法を使った1線地絡時の故障電流の計算は、

  • $a$, $b$, $c$相における1線地絡条件を求める
  • 対称分に変換する
  • 対称分等価回路を描く
  • 対称分の解を求める
  • $a$, $b$, $c$相に戻す

といった計算過程になります。

慣れてしまえば、ひとつひとつの計算は簡単なので、何度か計算過程を追ってみて、慣れましょう。

対称座標法としては、単に計算手順さえ覚えてしまえば試験で点数は取れます。

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1線地絡条件の導出

まずは1線地絡条件を導出します。

1線地絡故障の状況としては、中性点が接地された電力系統において、a相で地絡抵抗$R_g$を通して1線地絡状態になったときの地絡電流の計算です。

電気主任技術者試験でよく出題される、非常にポピュラーな状況設定です。

ここで、対称座標法を用いるにあたり、故障点から見た零相インピーダンス$\dot{Z_0}$、正相インピーダンス$\dot{Z_1}$、逆相インピーダンス$\dot{Z_2}$は既知であるものとして取り扱います。

図1 1線地絡故障

1線地絡故障の状況について、電気回路的にあらわすと、図2のようになります。

図2 1線地絡故障の回路図

図2から明らかに、電流条件について、

$$\begin{cases}
\dot{I_a}=\dot{I_g}\\
\dot{I_b}=\dot{I_c}=0
\end{cases}\tag{1}$$

であり、電圧条件について、

$$\dot{V_a}=R_g\dot{I_g}\tag{2}$$

となります。この式(1)と式(2)を合わせて、1線地絡条件と呼びます。

このように、1線地絡条件と聞くとなんだか難しそうな気はします。

しかし、実際には単に故障電流を$\dot{I_g}$、故障点の電圧をオームの法則から$R_g\dot{I_g}$としただけであり、単純な式です。

電気系全般に言えるのですが、専門用語のパワーワードで圧倒されがちですが、その意味を紐解けば当たり前のことしか言っていない場合が多いです。

1線地絡条件を対称分に変換する

では、式(1)と式(2)で示される1線地絡条件を、以下の対称座標法の変換公式を利用して、対称分に変換していきます。

$$\left(\begin{matrix}\dot{I_0} \\ \dot{I_1} \\ \dot{I_2}\end{matrix}\right)
=\frac{1}{3}\left(
\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a} \\ \dot{I_b}\\ \dot{I_c}
\end{matrix}\right)\tag{3}$$

電流条件

まずは電流について、式(1)から、

$$\begin{align}
\left(\begin{matrix}
\dot{I_0}\\ \dot{I_1}\\ \dot{I_2}
\end{matrix}\right)
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_a}\\
\dot{I_b}\\
\dot{I_c}
\end{matrix}\right)\\
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
1&1&1\\
1&a&a^2\\
1&a^2&a
\end{matrix}\right)
\left(\begin{matrix}
\dot{I_g}\\ 0\\ 0
\end{matrix}\right)\\
&=\frac{1}{3}
\left(\begin{matrix}
\dot{I_g}\\ \dot{I_g}\\ \dot{I_g}
\end{matrix}\right)\tag{4}
\end{align}$$

となり、

$$\dot{I_0}=\dot{I_1}=\dot{I_2}=\frac{1}{3}\dot{I_g}\tag{5}$$

が導かれます。

電圧条件

次に、式(2)で示される電圧条件と対称座標法の変換公式より、故障点の電圧について、

$$\begin{cases}
\dot{V_a}=R_g\dot{I_g}=3R_g\dot{I_0}\\
\dot{V_a}=\dot{V_0}+\dot{V_1}+\dot{V_2}
\end{cases}\tag{6}$$

となり、

$$\dot{V_0}+\dot{V_1}+\dot{V_2}=3R_g\dot{I_0}\tag{7}$$

となります。

対称分等価回路の導出

以上で得られた式(5)と式(7)より、対称分等価回路を描くと、図3のようになります。

図3 1線地絡故障時の対称分等価回路

少しややこしいので補足します。

式(5)は、

$$\dot{I_0}=\dot{I_1}=\dot{I_2}$$

であり、零相電流、正相電流、逆相電流が等しいことを示しています。

つまり、対称分回路において電流が1周することがイメージできるでしょう。

式(7)は、

$$\dot{V_0}+\dot{V_1}+\dot{V_2}=3R_g\dot{I_0}$$

であり、零相電圧、正相電圧、逆相電圧の和が$3R_g\dot{I_0}$であることを示しています。

なお、零相・正相・逆相の直列接続に$R_g$を接続しますが、回路内を流れる電流は式(4)から$\dot{I_0}\left(=\dot{I_1}=\dot{I_2}\right)$であるので、接続すべき抵抗$3R_g$とします。

ここはミスしやすいポイントなので、よく確認しておいてください。

対称分における解

図3の対称分等価回路より、オームの法則から、

$$\dot{I_0}=\dot{I_1}=\dot{I_2}=\frac{\dot{E}}{\dot{Z_0}+\dot{Z_1}+\dot{Z_2}+3R_g}\tag{8}$$

となって、対称分における1線地絡時の故障電流の解が一発で計算できます。

1線地絡時の故障電流の値

地絡電流$\dot{I_g}$は、式(5)と式(8)から、

$$\dot{I_g}=3\dot{I_0}=\frac{3\dot{E}}{\dot{Z_0}+\dot{Z_1}+\dot{Z_2}+3R_g}\tag{9}$$

となります。

そして、地絡電流$\dot{I_g}$の大きさは、

$$\left|\dot{I_g}\right|=\frac{3E}{\left|\dot{Z_0}+\dot{Z_1}+\dot{Z_2}+3R_g\right|}\tag{10}$$

となります。

これが、1線地絡時の故障電流の解です。

まとめ

ここまで、対称座標法による1線地絡時の故障電流の計算方法について説明してきました。

手順は細かく分ければ5個になりますが、基本的に同一パターンで全ての問題が解答できます。

そのため、慣れておくことが大事です。

例えば、電験においては、

において、対称座標法による1線地絡時の故障電流の計算問題が出題されています。

この問題では、1線地絡条件はすでに問題文中で提示されているので、手順2の対称分に変換するところからの回答でOKです。

一度解いてみましょう。

なお、試験対策としてはこの記事で説明してきたような過程をもとに、1線地絡条件から求められるようにしておきましょう。

その他、対称座標法による不平衡回路の解法の記事も読まれています。

以上、対称座標法による1線地絡時の故障電流の計算方法について、参考になれば幸いです。

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