電力系統の過渡安定度向上対策に関して、次の問に答えよ。
以下の過渡安定度向上対策から三つを選定し、その原理を発電機の加速エネルギーや減速エネルギーの観点から説明するとともに、採用時の留意点を各対策につき100~200文字程度で簡潔に述べよ。
(1)直列コンデンサ
(2)励磁方式の応答性と発電機のシーリング電圧の改善
(3)高速遮断と高速再閉路方式
(4)タービン高速バルブ制御
(5)低インダクタンス送電線
解答・解説
等面積法における加速エネルギーと減速エネルギー
問題そのものの解説に入る前に、まずは事故が発生し、除去されるまでの間に、発電所の機械エネルギーと電気エネルギーが、どのように増減しているのかのイメージをつかむのがいいでしょう。
発電所から供給される有効電力$P$は、送電端電圧$E_s$、受電端電圧$E_r$、内部相差角$\delta$とすれば、
$$P=3\frac{E_sE_r}{X}sin\delta\tag{1}$$
となり、電気的出力は、
①発電機の電圧$E_s$
②相差角$sin\delta$(発電機と受電端の電圧位相差)
③送電線のリアクタンス$X$
に大きく関係します。
また、動揺方程式は、慣性定数を$M$、発電機の角周波数を$\omega$、電気的出力を$P_e$、機械入力を$P_m$とすれば、
$$M\frac{d\omega}{dt}=P_m-P_e\tag{2}$$
で表されます。
この動揺方程式は、電気出力$P_e$と機械入力$P_m$が等しければ角速度$\omega$が一定、つまり電力系統の交流周波数は一定値になります。
一方、電気出力$P_e$が機械入力$P_m$より小さくなれば、
$$\frac{d\omega}{dt}=\frac{P_m-P_e}{M}>0\tag{3}$$
となって発電機回転数は上昇します。(解図1に示す加速エネルギーに相当。)
逆の場合には、
$$\frac{d\omega}{dt}=\frac{P_m-P_e}{M}<0\tag{4}$$
となって、発電機回転数は低下します。(解図1に示す減速エネルギーに相当。)
すなわち、事故が起こった瞬間、送電が停止し、$P_m$が余剰になり発電機回転数が上昇します。
これでは脱調してしまうので、発電機を脱調させないためには、
- 送電停止期間(加速エネルギー)をどれだけ小さくするか
- 電気的出力$P_e$をどうやって回復させ、減速エネルギーを大きくするか
といった観点が必要になり、その制御対象が先ほど挙げた①~③の手法になります。
解図1
小問(1)直列コンデンサによる過渡安定度向上対策
試験センター 標準解答
線路に直列にコンデンサを挿入して,送電線などのリアクタンスを補償し,全体のリアクタンスを小さくすることにより,減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,発電機・タービン系との軸ねじれ共振(SSR),無負荷変圧器励磁時の鉄共振,故障電流によるコンデンサ端子電圧での異常電圧の発生などがある。(留意点は系統構成などによりこれ以外も考えられるが,代表的な留意点として挙げている。以下の各項でも同じ。)
送電線のリアクタンスの補償による過渡安定度の向上
先ほど挙げた、「③送電線のリアクタンス$X$」に相当します。
送電線のリアクタンスXは誘導性(インダクタンス成分)なので、容量性となる直列コンデンサを接続することで誘導性を打ち消し、小さくすることで送電再開後の$P_e$を大きくし、減速エネルギーを大きくします。
ただし、送電線に故障が生じたとき、直列コンデンサに異常電圧が発生するため注意が必要です。
小問(2)励磁方式の応答性と発電機のシーリング電圧の改善による過渡安定度向上対策
試験センター 標準解答
発電機励磁方式を速応化し,かつ,シーリング電圧(頂上電圧)を高電圧化することにより,発電機内部電圧を上昇させることにより,減速エネルギーを増加させて過渡安定度を向上させる。
留意点は,速応化により振動発散現象(負制動現象)が生じやすくなるので,一般には PSS(電力系統安定化装置)が付加されること,発電機の界磁巻線の絶縁である。
発電機の送電端電圧の迅速な回復による過渡安定度の向上
先ほど挙げた、「①発電機電圧$E_s$」に相当します。
発電機電圧$E_s$を瞬時に回復させることで、送電される電気エネルギー$P_e$を大きくし、減速エネルギーを大きくします。速応化による振動発散現象に注意が必要です。
小問(3)高速遮断と高速再閉路方式による過渡安定度向上対策
試験センター 標準解答
高速な保護リレーによる事故判定と高速な遮断器動作によって事故除去時間を短縮し事故中の加速エネルギーを減少させ,また,高速な再閉路により減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
留意点は,高速再閉路に適した動作責務を持った遮断器にすること,
発電機-タービン軸間の過大な軸トルクの発生と,消アークイオン時間を考慮した再閉路時間の設定である。
加速エネルギーを与える時間に短縮による過渡安定度の向上
高速遮断・高速再閉路方式は、加速エネルギーの与えられる時間を短くするものです。
事故が発生し、電気エネルギー$P_e=0$になる時間を短くし、できる限り発電機を加速させないようにします。
注意点として、再閉路に失敗した場合、加速・減速が繰り返し行われることで機械的衝撃が大きくなり、軸ねじれが発生する場合があります。
すなわち、再閉路までの時間が短すぎると事故点の除去ができないまま送電を再開し、再閉路失敗になるので、再閉路までの適切な時間設定が重要になります。
小問(4)タービン高速バルブ制御による過渡安定度向上対策
試験センター 標準解答
事故を検出して,高速に蒸気弁を閉鎖し,タービン出力を減じることにより,主に事故除去後の減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。蒸気弁としては,通常はインターセプト弁のみの制御であるが,加減弁を制御することもある。
留意点は,蒸気弁の閉鎖により蒸気圧力が上昇しすぎないこと,タービン出力の急変に対しPSSが正常に動作することを確認することである。
機械入力を瞬時に低下させることによる過渡安定度の向上
こちらは機械的エネルギーの入力を抑え込む方法です。
電気エネルギー$P_e=0$になった瞬間、機械的エネルギーを急激に絞ることで、加速エネルギーを小さくし、また送電再開時に機械エネルギーを過少とすることで減速エネルギーを大きくします。
注意点として蒸気弁を閉じる際に、蒸気圧力が大きくなりすぎないようにする必要があります。
小問(5)低インダクタンス送電線による過渡安定度向上対策
試験センター 標準解答
送電線を複導体化し,主に複導体の等価半径を大きくして,送電線のリアクタンスを減少させ,主に減速エネルギーを増加させて,過渡安定度を向上させる。
複導体化に伴う留意点は,電気的には静電容量の増加,機械的には荷重の増加,ギャロッピングやサブスパン振動および複導体の稔回(ねじれ)などへの対処である。
送電線のリアクタンスの低下による過渡安定度の向上
こちらは「③送電線のリアクタンスX」に相当します。
複導体化することでリアクタンス$X$が小さくなります。異常電圧という観点では、直列コンデンサを接続するよりも安全です。
注意点としては機械的な問題で、着雪時のギャロッピングや、風の振動の乱れとサブスパン内の電線の固有振動の一致によるサブスパン運動があります。
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