令和4年度 電験2種 2次試験 機械・制御 問3 の過去問解説(パワーエレクトロニクス 三相整流器/インバータの計算問題)

三相誘導電動機を駆動する電力変換システムに関して、次の問に答えよ。

図1は対称三相交流電源、三相ダイオード整流器、直流フィルタ回路、PWM制御三相電圧形インバータ及び三相誘導電動機からなるシステムを示す。ここで、交流電源は電源インピーダンスが無視でき、パワーデバイス及び回路に損失はないものとする。以下の問に答えよ。

(1)図1において、直流リアクトルDCLに流れる直流電流は一定とすると、直流電圧は三相整流電圧平均値となる。三相交流電源は実効値$220{\rm V}$、$50{\rm Hz}$とすると、直流電圧$E_d\left[{\rm V}\right]$はいくらであるか、数値で答えよ。

(2)小問(1)において、誘導電動機を運転したところ、有効電力は$10{\rm kW}$であった。直流電流$I_d\left[{\rm A}\right]$はいくらであるか、数値で答えよ。

(3)三相ダイオード整流器は力率1で運転している。小問(1)、(2)において、入力の交流電源電流$i_a$の基本波実効値$I_a\left[{\rm A}\right]$はいくらであるか、数値で答えよ。

次に、図2は、図1のインバータのPWM制御で使われている三相正弦波信号波$v_u^*$、$v_v^*$、$v_w^*$とキャリア波$v_c$を示す。キャリア波の周波数は信号波の周波数に対して十分大きいものとする。以下の問に答えよ。

(4)信号波(振幅$0.9$)とキャリア波(振幅1)が図2に示す波形であるときに、直流電圧$E_d$の中点から見たインバータの出力相電圧$v_u$の基本波波高値$V_{up}$はいくらであるか、数値で答えよ。

(5)小問(4)において、インバータの$u-v$相出力線間電圧$v_{uv}$の基本波実効値$V_{uve}$はいくらであるか、数値で答えよ。

(6)インバータは電動機を可変するために$V/f$一定制御をしている。誘導電動機の定格周波数$50{\rm Hz}$時に定格電圧を発生するための$u$相信号波が図2に示す$v_u^*$であり、改めてこのときの信号波を$v_{u50}^*$と呼ぶ。出力周波数$25{\rm Hz}$ではどのような$u$相信号波$v_{u25}^*$とすべきか、信号$v_{u50}^*$を4周期分書き込んだ図が解答用紙に示してあるので、$v_{u25}^*$を信号の大きさ及び周期が明確に分かるように追記せよ。

図1 三相誘導電動機を駆動する電力変換システム

図2 PWM制御における三相正弦波信号とキャリア波

解答・解説

小問(1)

三相全波整流回路の平均電圧を計算すればいい。

三相全波整流回路の波形を解図1に示す。ただし、$V$は線間電圧実効値を示している。

解図1 三相全波整流回路 出力波形($V$は線間電圧実効値)

解図1において赤で囲んだ部分にある緑の波形は、

$$v=\sqrt{2}Vcosωt\tag{1}$$

であり、$-\frac{\pi}{6}$から$\frac{\pi}{6}$の間で平均電圧を計算すれば、

$$\begin{align}
E_d=&\frac{1}{\frac{\pi}{3}}\int_{-\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{6}}\sqrt{2}Vcos\theta d\theta\\
&=\frac{3}{\pi}・\sqrt{2} V\left[sinθ\right]^{\frac{\pi}{6}}_{-\frac{\pi}{6}}\\
&=\frac{3}{\pi}・\sqrt{2} V\\
&=\frac{3}{\pi}×\sqrt{2}×220\\
&=297.21019108\left[{\rm V}\right]\tag{2}
\end{align}$$

(答)$E_d=297\left[{\rm V}\right]$

小問(1)は、交流電圧実効値が線間電圧なのか相電圧なのかの明記がないので不親切に感じます。

他の年度の問題では、ちゃんと相間電圧と明記されていたりもするので、表記の統一は欲しいところですね。

なお、電力・管理科目の三相交流が関係する計算問題は、特記事項がない限り、基本的には全て相間電圧を示しています。

明記されているわけではありませんが、標準回答から明らかいです。こうした特有のルールに慣れておく必要性もあります。

小問(2)

パワーデバイスや回路において損失はないので、直流部・交流部とも有効電力は等しい。

誘導電動機に有効電力$10\left[{\rm kW}\right]$が供給されているなら、直流部には$10\left[{\rm kW}\right]$の潮流がある。

小問(1)より、直流部の$297.21019108\left[{\rm V}\right]$で一定であり、この状況で$10{\rm kW}$の有効電力を供給するので、直流部を流れる電流$I_d$は、

$$\begin{align}
I_d&=\frac{10×10^3}{297.21019108}\\
&=33.6462217653\left[{\rm A}\right]\tag{3}
\end{align}$$

となる。

(答)$33.6\left[{\rm A}\right]$

小問(3)

基本波については力率1で運転されているので、無効電力を考える必要はない。

線間電圧$220\left[{\rm V}\right]$で$10\left[{\rm kW}\right]$、力率$1$なので、

$$\begin{align}
I_a&=\frac{10×10^3}{3×\frac{220}{\sqrt{3}}}\\
&=26.2424242423\left[{\rm A}\right]\tag{4}
\end{align}$$

となる。

(答)$26.2\left[{\rm A}\right]$

インダクタ$L$の値が大きければ、直流部には一定の電流が流れます。

この時、交流電源側には方形波状の電流が流れますが、有効電力を生み出すのは、基本波成分(電圧周波数と同じ成分)の電流です。

回路理論の基本として、異なる周波数の電圧・電流でのみエネルギーが生み出されることを知っていれば、様々な周波数が入り混じった電流においても、エネルギーを生み出すのは交流電圧源と同じ$50{\rm Hz}$の成分だけであることがわかります。

小問(4)

インバータ出力電圧$v_{up}\left(t\right)$は、基本波波高値$V_{up}$、直流電圧$E_d$、変調率$a$とすれば、

$$\begin{align}
v_{up} \left(t\right)&=V_{up}sinωt\\
&=\frac{1}{2}aE_dsinωt\tag{5}
\end{align}$$

となる。そのため、

$$\begin{align}
V_{up}&=\frac{1}{2}aE_d\\
&=\frac{1}{2}×0.9×297.21019108\\
&=133.744585986\left[{\rm V}\right]\tag{6}
\end{align}$$

となる。

(答)$V_{up}=134\left[{\rm V}\right]$

小問(5)

線間電圧波高値は、各相の波高値(相電圧波高値)の$\sqrt3$倍である。

また、実効値に直すには$\frac{1}{\sqrt2}$倍すればいい。小問(4)より、$V_{up}$の値を用いれば、

$$\begin{align}
V_{uve}&=\frac{\sqrt{3}}{\sqrt{2}}V_{up}\\
&=\frac{\sqrt{3}}{\sqrt{2}}×133.744585986\\
&=163.82326433\left[{\rm V}\right]\tag{7}
\end{align}$$

となる。

(答)$V_{uve}=164\left[{\rm V}\right]$

小問(6)

誘導電動機は$v/f$一定制御で運転されているので、$25{\rm Hz}$のときは周波数$f$は$\frac{1}{2}$倍されているため、電圧指令も$\frac{1}{2}$倍される。

電圧指令は変調率、つまり信号波の振幅で決定される。

以上より、振幅$0.45$で、周期が倍になるように$v_{u25}^*$を描けばいい。

解図2

(答)解図2に示す通り。

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